人気ブログランキング | 話題のタグを見る

犬山×こども×大人×てつがく×対話


by 犬てつ

こども哲学 実践WS(3)「探究の共同体」の作り方

7月17日(火)「こども哲学 大人のための実践ワークショップ(3)
開催しました♪
 
Vol.3 「探究の共同体」の作り方
講師・進行 安本志帆さん
参加者 9名
 
前回、前々回で、「対話」「進行役」について考えましたが、今日はいよいよ進行役として「探究の共同体」を作るためにはどうすればいいのか、という話に入ります。
 
まずその前に、新しい参加者もいるので、このWSやてつがく対話がどういうものかを参加者が一人ずつ自分なりの説明をします。
 
―自分の言うことを受け入れてもらえる場
―聞いているだけでも参加していることになる
―子どもたちの疑問などをひきだすファシリテーターを養成する講座
―自分の意見を言ったり、人の意見を聞くことで、化学反応のようなことが起こる場
―今までと違った教育の可能性を感じる場
―既存の考えを教わるのではなく、自分で考えて学んでいく場
―場の信頼が高いので、安心して話せる場
―頭と心のストレッチの場
 
志帆さんからも補足の説明があります。
 
―コミュニティーボールをもった人だけが話す
―持っていない人はその人が最後まで話すのを待つ
―その人の意見について反対意見などを言ってもいいけど、言った人を笑ったり、人格を否定するようなことは言わない
―全員が同じ問いについて深めていく 
―来てくれた人たちで一緒に探究していく
―ファシリテーターは、みんなが好き勝手に話しているだけか、同じ問いについて話しているかを見極める必要がある。
―ゆっくり、じっくり聞ける場を作る。
 
こども哲学 実践WS(3)「探究の共同体」の作り方_e0382901_12295019.jpg
 
この場についての理解を共有したところで、次いで、「探究の共同体」探しワークです。
志帆さんが用意してきたのは、学校の道徳教材で使われている「星野くんの二塁打」というお話。

星野くんは野球の試合で監督にバントを打てといわれますが、絶好の球が飛んできたので思いっきり打ってヒットをとばし、チームは勝利します。でも、監督の言うとおりにしなかったということで次回からの試合出場はできないと言われました。
そこで問題です。
 
「Q あなたが学校の先生なら、このお話をもとに、どんな授業プランをたてますか?」
 
それぞれに数分間ほど考える時間をもってから、
Q まずはこの問いについてどんなこと考えましたか?
という質問からはじまります。

―これを題材に話すなんて頭が真っ白
(いつも最初に思ったままの発言をしてくれるMさんの意見に、場があっという間にほぐれます。) 
―監督の行為に納得できない。何を学ぶための野球なのか。
―星野くんはどうして二塁打を打ったのかの、星野くん自身の意見がわからない
―どっちが良いかが決まっているとしたらなんておそろしい教材なんだろう。
―プロは肝心の時にルールを破る
―難しい
―道徳って何を教えるかがわからない
―公務員(教員)として問いかけるのか、個人の意見として問いかけるのか
―道徳は先生の求める意見を答える印象がある
―哲学対話するにはいい内容かも
―学校のルールは守らないといけないのかとか、広げられる内容
―社会ではよくある(ニュースにもなったラグビーの例とか)
―自分が監督の立場になったらどうだったかを考える
―学校は先生とこどもの上下関係が常にある場所。社会でも同じ構造(中間管理職)がある。
 
こども哲学 実践WS(3)「探究の共同体」の作り方_e0382901_12300036.jpg
 
Q じゃあ、こうした話を受けて、自分ならどういうスタンスで子どもたちに教育したいですか?
 
―正解はなし。場面をいくつかに分けて、星野くんと監督の思っていることをそれぞれ出す。できるだけ多くの視点を出して、考えていなかったような意見がでるのがいい。
―子どもたちがどう思うかを聞いて、反対意見も聞いていきたい
―正解はなしで、持ち帰っておうちの人とかとも話してもらう
―自分は意見がすぐに出るタイプではないので、グループで考えさせるのではなく、1人ずつ主人公を決めた漫画みたいなのを作ってもらって、何かを教えるのではなく、それぞれに考えてもらう
 
Q じゃあ、星野くんが主人公だとどういう場面を思い浮かべるかやってみよう。
 
―やったーと思っていたのに、監督に否定されて、ちくしょーと思う
―やったーと思ったのに、監督にはそういう視点があったのか、という揺れる気持ち。周りをみて軸がぶれる。
―能天気なキャラで、褒めてもらえると思っているのに、監督に出ちゃだめといわれても理解できない。
―それぞれのキャラ設定には、この場面だけじゃなくて、もっと前から監督がどういう指導をしていたとかも重要なポイントにもなってくる。
―監督は男で、というパブリックイメージがすでにできている
―星野くんは4番バッターになれるくらいなので、いろいろと自分で考えて判断できる図太さもある。

そして、いよいよ今の話をふまえて「探究の共同体」のヒントや、哲学対話において一つの問いをみんなで掘り下げていくときに、進行役としてどういう佇まいでいることがふさわしいかを、一歩引いた視点から考えていきます。

志帆さんから出された問いは、
 
Q 複数の人が同じ場で話すときに大事なものはありますか?
 
みんなからでてきた意見に対して、志帆さんは一つ一つ自分の体験に基づいた話をします。
  
―こどもの場合、ぶっとんでる話もどこかにつながりがあるから、でてきた言葉はきちんと拾ってあげるのが大事。何十分も前の話しがそのこどものなかではまだ続いていて、ぽんとそれが突然でてくることもある。それをスルーしてしまうと、次に話そうという気がその子にはなくなってしまうかも。
―話しても拾ってくれそうに思えない場だと話しはしづらいので、話してもいいと思える場を作るのは大事。
―共同体というのは、その場で発言している人たちだけの範囲じゃなくて、発言していない人も含まれるし、時間もそう。対話の帰りとか、別の日とかでも、親子やパートナーとかで、持ち帰った話の続きをしてもらえれば、それも共同体に含まれるのではないか。

そして、こうまとめます。

てつがく対話の共同体は一つのものを掘り下げていく営みだけど、参加者に頑張ってもらうことではなく、進行役のあり方や、どういう態度で進行役として臨むかというキーワードだと思う。それで場が作られて、結果的に共同体ができるということではないか。

共同体=自分で考えたことを話す場=経験が色濃く反映される=内なるものを出す=安心な場でなくてはならない=尊重する=話してもいいと思える場を作ること

でも、これはあくまで志帆さんの考え方です。それを念押しした上で、次の質問に移ります。
 
こども哲学 実践WS(3)「探究の共同体」の作り方_e0382901_12301675.jpg

 
Q 特に子どもとの対話の場合、進行役として(志帆さんが)意識的にやっていることは何でしょう? 

参加者は頭をひねっていくつかの答えを出します。

―ぶっとんだ話も必ず拾う
―参加者へのリスペクト
―どんなボールが飛んできても慌てず動じない→参加者が投げてもいいかな、と思える。
―何かが出ると思って信じて待つ(信じて待つけど、出なくてもいいと思っている、と志帆さん。)
―何かの目的に向かわない、評価もしない
―正直さそのどれも重要なことで、意識的に行っているのもあるし、意識はしてないけれども結果としてそうなっていることもある。

でも、まだ挙がっていないポイントで、志帆さんが意識してないと忘れてしまうので、いつも大事にしているのが次のこと。
 
いろんな子どもにはそれぞれの背景があり、どういう背景があってこれを言っているかということを、想像する態度であるということ。
参加者の数だけ、嬉しいことや、悩みがある。
なんでその思考にいたったかを知る必要はなくて、そこに何かがあるということを想像して聴く態度。
それがないと軽んじてしまう。
ノンバーバルだけど、安全だと思ってもらえるような、自分のたたずまい。
たとえば、押入れのなかに子どもがいても、そこにいると意識して話している。
この場に居るということ、1人でも欠けたらその場は成立しない(別の場になる)。
子どもの場合は特にそれを意識している。
たった1回の経験でも、話すことが嫌になったり、傷を負ってしまうこともあるから。
 

今回のWSには、大人と一緒に小学生が二人来てくれていました。二人は対話には参加はしていませんでしたが、志帆さんの言葉は、この二人にも向けられているものだということが伝わります。そして、参加者にとっても、特に今回の学校にも関わってくるような話においては、自分たちの発言がこの子たちに聴かれているということを意識しないではいられませんでした。
 
そこに居るというだけで共同体の一員となる。そこに居なくても共同体につながっている。進行役にとって本当に重要なことは、場をうまく切り盛りするといったテクニックではなく、そうしたことや他者への想像力を働かせながら、場に臨むこと。そうした佇まいが、共同体としての場を生むのだということを、志帆さんは意識をもって、全身で伝えようとしているのだということを、改めて感じる回となりました。
 
大人の場合、それは進行役に限らず、場にのぞむ一人一人の心構えでもあるのかな、とも思いますが、子どもの場合、やはり進行役は大人以上にその心構えを意識しておく必要があるのでしょう。
大人にとっては何回目かの経験でも、小さな子どもにとっては、それが初めての経験かもしれない。はじめて思い切って口に出した言葉を拾ってもらえなかったとき、その子はどう思うだろう。
そうした相手を想う気持ちは、やっぱり意識しないと忘れがちになってしまう。さらに想っているだけでは相手には伝わらないこともある。前回の犬てつの「家族」のテーマにも通じますが、「共同体」は作り上げていく努力も必要で、意識すること、口に出すこと、行動すること、このバランスが重要なような気がします。
 
さて、次回は8月はお休みで、
9月18日(火)開催となります。
テーマは「個性を進行にどう活かすか」

みなさんのご参加、お待ちしております。

(犬てつ ミナタニ)



by inutetsu | 2018-07-19 12:42 | 「こども哲学」進行役 実践WS