哲学対話と熟議民主主義 「犬てつ」の試み
2021年 05月 01日
犬山市広報紙2021年5月1日号に、寄稿させていただきました。
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哲学対話と熟議民主主義 「犬てつ」の試み
ミナタニ アキ(犬てつ主宰)
ちまたに、「個性尊重」や「多様性を認める」という口当たりのいい言葉があふれています。
でも、あなたはあなた、私は私。他人がおかしな考えでも、異論を唱えることは差し控える。自己責任という言葉によって、困っている人がいても自分には関係ないと割り切ってしまう。「人それぞれ」ということは、他者を切り捨てることにもつながっています。
さらに、多様性を認めるなかで、意見の対立が起こったらどうすればいいのでしょう? 多数決によって決める? でも、自分が信じる意見を、数の原理だけで否定されたとしたら、それは納得のいくものでしょうか?
私が四年前にはじめた活動「犬てつ(犬山×こども×大人×哲学×対話)」は、一見自由で楽しそうな場にみえますが、進行役や参加者のみなさんと一緒に、多数決の原理には収まらない熟議の可能性を探ってきました。
哲学対話では沈黙が重視されます。異なる意見に耳を傾け、ゆっくりと時間をかけ、自分の考えを表現し、問いかけ、お互いに納得のできる共通了解を探ります。自分や身の回りの物事を人と一緒に探求し、それぞれが自分の軸を見つけだす。それが多様性を認めることにつながるはず。
民主主義の本質は多数決ではなく、みんなが対等な立場で自分の意見を語りながら、自分たちに関わる問題について考え、決めること。多様な視点から自分の考えを問い直す哲学対話は、社会を創造的に生きるための大事な術です。
政治は遠いものではなく、まさにこうした場から生まれるものにちがいありません。
by inutetsu
| 2021-05-01 23:42
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